novtanの日常

ネタです。ネタなんです。マジレスする人は撲滅すべき敵です。だからネタだってば!

盗んだバイクで走りださない「さとり世代って」

人目につかない駐車場にひっそりと置かれた新品のバイク。そこは豊の最寄り駅までの近道に面していた。豊は誰のものとも知れぬこのバイクを一目見た時から、乗りたい、走り回りたい、日々の暮らしにも事欠くようなワーキングプアである自分の殻をぶち破って新たな世界に走り出したいという衝動を次第に抑えきれなくなっていた。
「俺の給料だと3年働いても買えないな…」
そんな風に呟きながら、今日もまた駐車場に通りかかる。ふと、気づいた。
「…キーが…」
そう、刺さっていた。


誰も通る様子がないことを確かめつつ、ゆっくりとバイクに近づく。キーをひねるとヘッドライトが点灯した。郷里で年の離れた従兄弟に乗せてもらっていたから、運転はできる(もちろん無免許だ)。従兄弟が程なく事故で亡くなってから、バイクには縁がないモノだと諦めていた。第一、親がそんな危険なものダメだとなってしまっていたから。その両親ももういない。

異を決してバイクに跨る。力強く蹴り出せば俺の人生は変わるだろうか。

いや、ついぞ体験したことのないバブル景気は再来しない。このバイクを買った人も一生懸命お金をためて買ったのだろう。俺なんぞが盗んでいいものか。所詮、一時の衝動のために窃盗で捕まったり事故で死んだりするのではどのみち俺の人生に意味なんかない。いつになるかわからないけど、自分の金でこのバイクに乗ることができるようになったら、それが本当のスタートじゃないか。


豊は静かに立ち去った。二度とこの近道を通ることはなかった。



ってこういう奴?

盗んだバイクで走り出さず… 「さとり世代」生態、本に:朝日新聞デジタル