えーと、そもそもフルリモートでできる仕事とは一体なんぞや、というところからだと思っているんですが、我々の「仕事」というものの大半は単なる事務作業ではない以上、その単なる事務作業でないファクターをどうリモートで実現するのか、というのが基本のキですよね。
物理的実体を相手にする仕事は当然ながらリモートにはならない(現状は。将来はロボットオペレーションの仕事のほうが普通ってなるかもしれない。あとはそこに人間がいることの付加価値があるのかどうかみたいな)。なので、必然的にホワイトワーカーの仕事がフルリモートの候補であり、その中でも特異的にITの仕事がフルリモートをやりやすい、と。ここまではOKだよね。
ここ最近(ソフトバンクの話を起因にした)のフルリモ止めますの話への反応の中で、一番僕が不可解なのは「適切に作業が割り振られていればフルリモートで問題ないのになぜ」という声がそれなりに多かったことなんだけど、それって「その程度の仕事の人が多数」ってことなんだろうなあと思ってしまいました。ちょっと意地悪な言い方かもしれないけど、それだけが理由になるならそうなんだろうと思うよね。タスクが事務の延長線上で、確実に計算できるものしか振られていない、ということで、ミクロの課題解決以外のクリエイティブな仕事はやってません、と。
雇用条件の時点でフルリモートが確約されていた人、というのはここ最近新たに雇用された人の一部だけなので、そういう例外的な人たちを基準にフルリモ継続の議論をするのはまず止めましょうか。その人達は雇用条件が反故にされたことについて全力で争えばよろしい。
そうじゃない人たちは、元々フル出社していた人が大半だよね。リモートワークに慣れて、フルリモが良いなあと思っているとして、会社がフルリモを止めるって言ってるならフルリモを継続するメリットの提示やデメリットの払拭をもって会社と交渉する、というのが正しい会社員仕草ですよね。もちろん、会社の命令に唯々諾々と従うのも正しい会社員仕草です。一番良くないのは文句は言うけど何もしない(でも文句だけは大きな声で言う)という生産性のない、ほんとに君リモートで仕事できてるの?って疑われるようなアクションですかね。
もちろん、転職をするのも良いと思います。今の転職市場で正社員を狙うともはや「フルリモート」が前提になっている仕事はレア中のレアなんじゃないかとは思いますけどね。
ちょっと話がずれますが、僕はSIerの人間ですが、BPさんの参画時の条件がフルリモートであるとき、自分達が出社するからと言ってみんな出社ね、とは言いません。ここは契約条件なので変えてもしょうがない。ただ、うちの会社でも出社回帰はあり、今後の新しい案件では週いくつで出社できますか、という条件はついてくることが多くなるとは思います。約束が違うじゃねーか、ということにはならない。
話を戻すと、フルリモートを止めたい、と会社が思っている理由(リモートワークの課題)はなにか、というのを考えることで逆にリモートで大丈夫な理由、というのは可視化されると思っています。なので、ここからは完全に一般論にはならない(個々の会社の課題なので)けど、僕が考えるリモートのメリデメは書いておくことにします。
5年くらいこういう状況で暮らしてきてフルリモについていくつか思うことを述べておきます。僕の立場は「中堅SIer(独立系)のマネージャ兼アーキテクト職。顧客アカウント責任者」です。子どもはいません。
メリット
- 通勤時間がゼロ
- 直接カットインがない
- 作業環境が快適(これは個人差がとてもでかいところのハズ)
- BGMなど掛けても文句を言われない
- 会議室がなくて困るなどということがない
- 昼休みに役所や郵便局に行ける
- 荷物が受け取れる、その他、家にいないといけない用事のために休む必要がない
デメリット
- 通勤時間がゼロ(主に運動的な観点で)
- 直接カットインできない(コミュニケーションツールに応答しない人の動向を把握することが難しい)
- 回線が途絶すると仕事にならない(会社携帯でテザリングはできる)。自宅の環境なので自己責任
- 移動がないので休憩なく会議で予定が埋まる
- 光熱費が高い
- 集中できる反面、途切れると気が散りやすい
- 定期がない
- 飲み会がない
こんな感じですよね。コミュニケーション課題については僕の立場においてはそれほど発生しないんだけど、じゃあ現場ではどうかと言うと、一番問題があると思うのはトラブル発生時の瞬発力が落ちているな、ということ。これはトラブル発生の予兆を掴む時期が遅くなるということも含めてですね。あと、生産性が出ない要員のフォローが難しい、というのもあります。生産性が出るのかを見極めるのが作業の進捗になるというのがもう既に遅いんですよね…そういうところを考えると、エンジニアの働き方・働かせ方においてフルリモートを維持することの懸念としては問題プロジェクトの統制問題に尽きるのではないか、と思うわけです。
正直なところ、問題が発生していない、物理的な制約を要さないプロジェクトに従事する限り、フルリモートで懸念される事項は教育くらいかなあと思ってはいます。正社員であれば特に与えられたタスクを楽々こなせてしまう場合にどうするか、みたいな話が見えづらくはなる(そこまでネガティブな問題ではないけど)。
一方で、不芳化しているプロジェクトにおいては作業時間を確保したいから出社嫌だみたいな話になりがちですが、ヤバい状況になればなるほど「日単位で割り当てられたタスク」なんてのは崩壊しますし、できることがなくなってしまった要員にタスクを振るタスクが回らないみたいにすぐなる。みんな同じところで仕事していると解決しやすい問題が放置されて事態の悪化を招いたりもします。
というところを考えると出社してほしいという会社の言い分も少しは分かると思うんですよね。問題PJTの個々の作業者としては出社なんてしてられねーって思ってることが多そうだけど、客観的に見てトラブルの解決は有識者が集まっていて、作業者がそこからの指示をすぐに受け取れる状況がベターなので、問題PJTほど出社してほしい、でも問題のないPJTの人たちが出社してないとなると不公平感がでる、となるとみんなまとめて出社すればいいじゃん、と。合理的ではないですが、人間が全部合理的に行動できるなら世界はもっと平和なので…
なんともしがたい話ではあるけど、出社を求められた、出社をしなくても仕事が回る人が不満を感じるということが、出社をしなければならない人たちが出社しない人をみて不公平感を感じるのと同根の感情の問題だと考えると、そりゃみんな出社になるよな、と思うわけです。徹頭徹尾効率の問題と割り切ることができれば「状況に応じて最適な行動を取る」ことは当たり前にできるわけじゃないですか。でも「俺はフルリモで行ける。出社なんて嫌だ」という判断は必ずしも全体最適ではないことも多いので、フルリモ維持が個人的な満足を押し通そうとしている行為と見られてしまう(という会社の方針)なのであれば、それはやっぱり維持は難しいわけですよ。したがって、出社を求められる会社でフルリモを維持しようと思ったら、フルリモじゃなくなった人たちが不公平感を感じないようにする必要があるし、会社組織の中で例外的にそこを突破するのに最も手っ取り早いのは「あの人はまあしょうがないよね」くらいの輝きを見せることくらいじゃないかなーって思う次第。