novtanの日常

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続・インボイス制度の問題の本質

前回のエントリが久々に注目を集めてしまったので、はてブに知見がたくさん集まりました。なので、ブコメからコメント(の内容)をピックアップして議論できたらと思いまして、続きを書くことにしました。
インボイス制度の問題の本質 - novtanの日常

再度お断りしておくと、僕は法律の専門家でもなければ経理の専門家でもないので、法理の話とか、事務手続きの実際とか、そういうところを隅から隅まで把握しているわけではありませんし、そのあたりは実業務に従事されている諸兄のほうが詳しいことが多いと思いますので、ぜひ(懐かしい言葉ですが)集合知を発揮していただきたいと思っております。

本質って部分が書いてねーじゃねーか/どこが本質だかわからない

すみません。m(_ _)m
最初間違ってタイトル無しで公開してしまいまして…orz
焦って適当なタイトルつけちゃいました てへぺろ(・ω<)
(ここだけ平成並)

消費税が悪い

これは議論の前提が違うのでここでは議論しないほうが良いと思います。消費税の課題は導入当初から益税と言われていた部分が大きいと思っており、それは長年かけて解消(軽減)されて来てはいるんですよね。そこで最後のトドメとしてインボイスの採用、なんですが、採用するに当たっての課題があまり解決されていない(手段が拙い)ことが今直面している話というわけではあります。消費税そのものの問題(逆進性が強いなど)はまた別の話として考えましょう。

やっぱりインボイス制度自体は正しいんじゃないの?

前回冒頭で述べた通り、その事自体は僕もそう思っています。特に税の負担をどういうふうにやっていくか、という話だけであれば。問題は提示されている手段なんですよね。事務コストもそうだし、登録情報公表問題もそう。発注者側の立場からすると「免税事業者は存在しない」になってくれるとまだ楽なんですけどね…

免税事業者からの仕入控除ができなくなるのが問題

これはまあ制度の目的を考えると当然ではあります。経過措置で控除率が徐々に下がっていく、というのも困った話で、結局免税事業者から仕入れてしまうと税負担が増える、という風に受け取っている企業が大半なんじゃないでしょうか。ここがおそらく一番今回の意見が分かれるところでしょう。

  • 適正に税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね派(弊社は基本的にはこれです)
  • 適正かどうかしらんけど税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね派(こういう会社も多そう)
  • 適正かどうかしらんけど税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね。税込みだったよね?派(なあなあでやっていた場合ここになる罠がありそう)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたけどそれできなくなるからちゃんと税込みで払うから適格請求書ちょうだいね派(こういう会社もまあまあ多いハズ)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたしその単価しか払えないから今度からその金額税込みなんで適格請求書頂戴ね派(これは悪の所業だけど案外多そう)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたけど、適格請求書出すの大変だろうし今まで通りでいいよ税金はうちが負担しますよ派(神?おそらくいません)

事務コスト考えたら益税吹っ飛ぶんじゃ

これは結構現実的な問題と捉えている人が多いですよね。実際のところ、ITの活用や領収書の電子保存等々、外堀を埋めて満を持してやってきた、という感はあるんですが、それでもまだ一人親方として余計な時間を取られるということを忌避する人も多いですよね。
ところで
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/invoice.pdf
に結構な補助制度の説明があります。インボイス制度になること自体を渋々ながらも受け入れられるのであれば、こういったものは最大限活用してほしいです。
こういうのを活用してもなおこういう問題がある、という人はやはりそこをきっちり説明した上で問題として訴えないと。ただ面倒くさい、というだけで嫌がっているのは一番ダメです(そりゃ嫌でしょうけど…)

値上げ交渉できないのがダメなのでは?

これもね、正論なんですよ。ただ、往々にして値上げ交渉ができないジャンルって「定価がない」んですよね。この資格を持っていたらいくら、この仕事内容だったらいくら、とかお国が決めてくれるんであればありがたいですが、「これだけ払ってやっているんだ。ありがたく思え」みたいなエリアだってあるはずですよね。
「代わりはいくらでもいるから」と言われるエリアで仕事をするとそうなっちゃうことが多いじゃないですか。もちろん、労働市場からするとそれは「供給過多」ではあるんですよね。だから、そんな仕事を選ばなければ良い、と言いたくなる人もわかります。わかりますけど、ねえ。
これを誰もが納得できる形で解決するのはとても難しい。そして、弱者が割を食うのが想定される形で制度が執行されようとしている。とはいえ、急に言いだした話でもなくて結構何年も前からそうなるよって決まってました。マッチョイズムで考えると弱者であることから脱却できない責任が個々にあるってことになりますが、ちょっとマッチョすぎやしませんかね。

税抜きの金額で受注してたのってダンピングなのでは?

そうは言っても僕もまあまあマッチョよりの考え方ではあるので、「相場より安い価格で勝負しているのが価格しか競争力がないからなんだったらそんな仕事で事業者するの止めたら?」って思わなくはないんですよね。お前らが相場下げてんのかYO、みたいな。
この件も上の話と一緒で「定価がない」「価格決定権がない」「あっても値切られる」というような問題がありますよね。実質社員のようなものなのに個人事業主である、みたいな仕事がなければ良いんだと思います。おそらく特定の業界について門戸が狭くなるけど、その方が幸せかもしれませんよ…

事情があって個人事業主としてやってくしかない人もいるんです

そうですよね。そういう人もいますよね。1ヶ月フル稼働できない人だっているし、そういう人ほど相対的に事務コスト重たいですよね。大多数が適格請求書を出すような社会になれば、逆に例外としての運用がしやすくなるかもしれません。過渡期の犠牲者と考えたほうが良いとは思っています(何も解決していないが)

益税なんてないです

あります。というか、消費税が導入されたときの騒ぎをまだ覚えている人は僕らの世代には結構多いでしょう。当時は自営業の人がインタビューで「もらう金は増えるし免税だしでウハウハです」みたいなことを言っていたりとか、はっきりと益税としての性質が明らかになっていたし、そういう不公平感が田舎のJUSCOの進出を正当化したしそのせいでシャッター街が増えて…あれ、消費税やべーじゃん…ソレハサテオキ
ただ、この益税としての性質は免税になる要件を狭めていったり、色々した結果だいぶ是正されているので、当初に比べて益の部分が薄くなっているのは確かなんですよね。だから、「そこからも搾り取るの?」みたいなイメージにはなりますよね。今回、政府側がちょっと説明足りてないのは「これが正しいからやるんだ」とかそう言うんじゃなくて、実際にどこの益税を是正するのがターゲットなの、というメッセージが伝わってない点だと思うんですよ。これを免税事業者側だと言う人もいれば、実質的に享受している発注者側だ、と言っている人もいる。これってどっちが正しいのって話じゃなくて、ケースバイケースで発生していることじゃないですか。どちらかが正義、という意見には僕は与さないし、ポジショントークだと思っています。
あと、預り金じゃないって見解が出たから益税じゃないじゃんってこと言う人もいますが、預り金じゃない=益税ではない、ではなくて、制度上国庫に納めないことは問題ない=益税である、ということじゃないのかなあ。益税=単純に悪(制度的にはあっては良くないが、実際に益が出る人が不正をしているわけではないので享受している人を悪と単純化してはいけない、ということね)、という構図に囚われているのでそういう発想になっているだけで、正しく制度のメリットを享受している(してきた)ことに何の問題もありません、ってことでしかないです。

これは実質増税なのでは?

厳密に言えば増税ではないと思いますが、免税要件を満たしているのにそれを実質機能しないように塞ぐってことであればそれは実質増税ですよね。さっきも述べた通り、実際に益税であっても、もうその益の部分は誰かをうはうはさせるレベルではない(特に免税事業者側にとっては)ので、やっぱり実質増税と言っても過言ではないですよね。まあ、優越的地位を乱用して請負業者に相場より安く税込みで発注している立場の人は請負先の掛け算で利益が出るので、現状の状態が実質脱税と言っても良いかもしれません。そういう会社が今回のターゲットなのでは?って思ってはいますけどね。それで免税事業者が割を食うのどうなのって話ではあります(これ堂々巡りだけどさ)

最後に

まだ色々意見もらってますが、キリがないのでこの辺で終わりたいと思いますが、何にせよ、こういった変化にはどうしてもわりを食う人がいるし、それが弱者の場合、社会へのインパクトが大きかったりもしますし、全員がハッピーになるシナリオは存在しないと思います。ただ、これを制度が悪いとか今まで得をしてきたやつが悪いとかで簡単に片付けられるとは思わないし、何事においてもそうですよね。大事なのは問題の当事者がちゃんと声を上げることだし、社会を変える事のできる力を持つ人と共同して動いていなかなければならないんですよね。
現在の社会の大きな課題はなぜかそういう問題に対する「運動」が適切に行われないことにあります。労組はもはや力がないし、共産系市民団体とかもう社会の支持から遠いところに行ってしまったし、数々の「~の春」を生んだインターネットは団結じゃなく断絶により多くの力が発揮されている始末。市民が社会の変革を迫るにはまだ「怒りが足りない」のかもしれませんね…

こっちも追記

いくつかコメントに応答的に。IDは一旦出しません。
>ジャスコはJUSCO
あ、はい。修正しました。

>なんでこの話になると免税事業者が全員消費税を取ってたことになるの?
ならないですよ。でも前回含めそこのケースについて明確に書いてなかった気もする(実質的には書いてるつもりだけど)。
免税事業者だから「税抜きで」ではっきりやっているところがどのくらいあるのか正直わからないけど、仮にそうだとしても元請けが側って見なしで仕入れ控除ができるので、その場合は元請け側の益税となっている、というのは前回も今回も触れたとおりです。

>「制度上国庫に納めないことは問題ない=益税」←納める必要がないお金は”税”とは言わない。
益税の定義が「消費者から預かった~」って一般になっているのが益税あるなし論の誤った論点(預り金じゃないから益税じゃない、という理屈をめぐるもの)だと思ってるんだけど、「免税」という言葉がある以上、「税」なんですよ。税じゃないなら免税しないじゃん。制度上発生するものであり、収めない人が不正をしているわけではない、ということだよ。
上でも触れたけど、消費税の導入当初は自営業は3000万くらいまで免税事業者だったから、上限一杯で3000万売上てた自営業は何もしなくても90万収入が増えた。もし免税枠が当時のままだったら5%→8%→10%のたびに何もしなくても収入が増えてた。実際には免税枠は減ってるけど、逆に免税枠に収まっている限りは税額が上がるたびに収入増えるわけじゃないですか。
これは消費税の制度の欠陥でもあるんだけど、税額を上げれば上げるほど、そこの枠が増えていく。政府は税額上げたいだろうから、この状況は是正したい。フリーランスみたいな働き方を増やしたい(ほんとかしらんしいいことだとも思ってないけど)けど、小規模事業者が増えれば増えるほど、この免税枠によるとりっぱぐれが増える。そりゃやめたいわな。
なんだったら、将来増税されることも込でフリーランスの有利なところ、みたいなフリーランスおすすめをしてた人とかいるんじゃねかなあ(ちょっと調べた限りだと、「お得」って書いてある記事は発見した)

>雇われ税理士としては事業者免税点制度が小規模事業者の事務負担と税務執行コストへの配慮から設けられてるのにそこを乗り越えてどうすんの?って思ってる。
そうだよね。ここがアンバランスであることが今回の問題の本質の一つです。今回のエントリへは値上げできないやつは退場とか事務負担で泣くやつは退場みたいなマッチョなコメントが多すぎって思っています。もちろん、自営業やるってことはそういうことだよってのは正しいんだけど、色々事情もあるよ。契約のロット(や1回の金額)が大きくて経費もある程度固定化している雇われエンジニアのフリーランスの事務コストと、ちっちゃい売上と仕入れを山盛り取り扱わなきゃならない人の事務コスト、同じだと思います?前者だけで物を言っているのであればちょっと違わねーかなーって思いますよ。

>農業経営してますが、農家は価格決定権がなく市場で決定されるから全然価格転嫁できない。うちも持ってるけど価格交渉できる契約をもつ農家しか生き残れないなら今の市場中心の仕組は壊滅です。それで本当にいいの?
ですよねー。JUSCOのくだりを書いた意味を察してってことです。

>消費税の良し悪しを抜きにしてインボイス語るの流石にポジショントークだろ。電子帳簿は運用最悪の悪法なのに外堀埋めてるとか何言ってんだよ。
なんのポジションか言ってみ?まあ電子帳簿の話はわかる。でも外堀の話はそういう単一イシューの話ではないよね。埋まりきってないよってことであればその通りで、だからこんな揉めてるわけじゃん。まあでもこの人はおそらくロジカルに問題点をおさえていると思うので、そういう人が問題点をもっとアピールして行く運動をすることで自体の改善につながるかもしれません。僕が今回これを書いている目的の一つは、両側の人が双方認識していない、相手方が考えている正しさや誤りを可視化したいという点にあるので、ちゃんとわかっている人や問題に直面している当事者がもっと活発に動けるトリガーになったら嬉しいんだけど。


さて、
改めて言っておくけど、出来もしないのに欠陥制度に乗っかることでかろうじて成立しているフリーランスなんてのはやめちまえ、というのは正しいと思いますよ。でも、そう単純に割り切ることのできない世界が存在していることも、色んな人の声を聞いてわかるじゃないですか。ありとあらゆる職業とその契約形態を体験したジョブマスターみたいな人はいない以上、制度の犠牲になる人がどうなっちゃうのかくらいには思いを馳せても良いと思いますよ。
かつて、池田勇人が「中小企業の倒産・自殺やむなし」って言って通産相を辞任したことありますよね。マッチョな皆さんはそういうこと言っているつもりかどうか、もう一度考えてほしいです(そうなるのはしょうがないと思っていてもそれを世の中に必要なことだと求めるまでいかないのであれば、そこまでは言わないほうが良いですよ)。

あと、僕が今回影響を受けて困っているフリーランス側と誤認している人もいるみたいだけど、サラリーマンです。念のため。

インボイス制度の問題の本質

(続きを書いたのでよろしければそちらも)
続・インボイス制度の問題の本質 - novtanの日常


セルフまとめで絶賛とかタイトルつけてるやつがいるのでイラッとして書いた。
togetter.com

個人的にはインボイスの制度自体は事務コストの問題とか(何とかするって答弁かなんかで言ってた気がするんだけど)本名開示問題とかそういう話があって可哀相だしなんとかしろよって思っている反面、制度自体がおかしいとは思わないので、そのあたりも含めて簡単に説明しておいたほうが良い気がした。専門家でもなんでも無いけど、とにかくさっくり免税事業者は益税だから悪みたいに結論づけるこのまとめにイラッとしたので。

まず言っておくと、免税事業者が益税云々という話は「必ずしも当たらない(役所並)」と思っているのでそういう立場だと思ってください。

さて、問題によくなるフリーランス事業者の免税問題についてはまず消費税がどこで発生してどう取り扱われるか、ということを知らなければならないですね。と言ってもこんな話は国税庁が普通に解説してくれているのである。
これの具体例を見れば一目瞭然であるわけですが。
www.nta.go.jp

もう少し事例を一般化というか、踏み込んだ事例に近づけると、よくある仕事の話としては
発注元→元請け→下請け
という構造になることが多いよね。フリーランスの登場の主な部分はこの下請けになるので、一旦この設定で考えよう。

ここで、どこで消費税が発生するかというと、まず、元請けが発注元から150万で仕事を受注する。この150万にかかる消費税は15万なので、発注元は165万を支払うことになる。
そして、下請けに100万で発注する(これは50万抜いてるってことじゃないよ。元請けにも仕事があり費用があり、外注する分の費用が100万ってだけだよ)。本来であれば、単価100万で請け負った下請けは消費税込み110万を請求して受け取るわけだ。じゃあ、消費税って25万発生しているの?っていうとそうではない。元請けにおいては仕入れにかかった費用にかかわる消費税額については下請けが納付するべき消費税なので元請けが納税する金額は15-10万で5万ということになります。(上記の国税庁のサイトで7.8/110になってるのはおそらく国税分だけだから。地方消費税分が除かれている)

実際の消費税の納付の仕方はいくつかパターンがあるので必ずしもこうならないけど、まあ単純化するとそういうお話です。つまり、中間の事業者は仕入れ(実際には課税仕入)にかかった費用の消費税は控除の対象になります。これがお話のポイントですね。なお、課税仕入かどうかは仕入れの相手先が免税事業者かどうかは現時点では関係ありません。

さて。

インボイス制度というのは、インボイスという適格請求書を発行することができる事業者として登録してね、という制度なんですが、ポイントとしてはその登録をすることで免税事業者でなくなります。そして、仕入れる側としても適格請求書を受け取った仕入れ以外は消費税控除の対象にならないということですね。つまりさっきの例でいうと

150万(+15万)で受注し、100万で発注した先が適格事業者でない場合、元請けの事業者が消費税を15万納付する必要がある

ということですね。何の問題もありません。ありません?一見ないんですが、ここがもう一つのポイントで、こうなった場合って当然ですけど「下請けが消費税額分を上乗せ請求することはおかしい」ってなるので、下請けに渡る金が110万→100万になるってことですね。まあでもその10万は下請けが消費税納税する代わりに元請けが納税するのですから何の問題もない。ないですよね?

ところが、その下請けが免税事業者だった場合はどうでしょうか。免税事業者なので110万もらったら110万もらってるわけです。何を当たり前のことをと思うかもしれませんが、課税事業者であれば110万もらってもそのうち10万は確定している税額ですから、もらったことになりません。その代わり、自分が仕入れに掛けた額の消費税分は控除できますけどね…

世の中に言われているところの「益税」ってのはこの部分になります。

ふーん、じゃあ免税事業者が不当に金を貰いすぎてるってことじゃない、ってなりますよね?なりますか?

ここが本件について意見の分かれる最大のポイントですね。僕としては原則論で言えば免税事業者もちゃんと消費税を納付するようになったほうが制度としてきれいだなーって思いますね。
消費税が導入された時にインボイス制度を諦めた背景としてはやっぱり当時も中小事業者(主に個人商店)の負担が大きすぎる、ということに配慮した(消費税導入自体を優先した)からだし、みなし仕入率なども段階的に修正されてきたとは言え、特に消費税開始当初はまさに益税と言って良いくらいではあったんですよね。

でもちょっと待ってほしい。これは本当に益税なのか?

ここで注意したいのは、いわゆる「個人商店」において、普通の商取引で発生する仕入れと売上の差額が云々って話って自由に仕入れができる市場のもとでは大いに益税として機能する余地があると思うんですが、フリーランスのなんちゃらがそうであるかという点にも目を向けるべきです。

先に述べた例で「単価100万で請け負った下請けは消費税込み110万を請求して」って書きましたけど、本当に消費税分ってもらえてます?もしかして「君免税事業者だよね?相場100万+消費税だけど、免税事業者だから100万ちょっきりでよいよね?」ってなってませんか?これ個々の契約の話だから最終的にはそこでの取り決めの話でしかないんだけど、こういった形で「相場より安く受注している」場合、まさにガッツリ益税の話なわけです。つまり本件のお得度合いは単純化すると2パターンあって

  • 相場が100万なのに100万税込みで受注している(元請けが得している)
  • 相場が100万なので110万税込みで受注している(下請けが得している)

ということになりますよね。そうするとさ…1番目のパターンの場合に下請けの人が「課税事業者登録するので110万で…」って言ったら「えー、そんな急に単価上げられても困っちゃうんだよね。取引停止ね」となる可能性もあるわけです。なんとなく優越的地位の濫用の匂いを感じますが、元々口車に乗って低い相場で受注しちゃっていることが致命的なわけですね。
後者の場合、自分が設定した適正な価格に対して税込みでもらっている場合はまさに益税を享受していることになるので、まあそれは諦めてよねって感じはします。とはいえ、これまで発生していなかった事務コストを自分で負担する、ということになると、稼働率が落ちる(=売上が下がる)か、費用が余分にかかるか、いずれにしてもこの益税になってた部分を取り崩す以上に負担が増えることもありえますよね。なので益税だったんだからいいじゃんってほど単純ではないかな。

結論としては「税抜きの相場の金額を税込みで契約しちゃっている」人が特に割りを食う話だってことですよね。そして、下請けの立場から簡単に「というわけで消費税分の単価マシマシで」とはいえない、という仕事の構造上の問題があります。で、どちらの場合も事務コストの負担は馬鹿にならない、というのも大きなポイントですよね。

それでも、自分が「起業する」とした以上はある程度受け入れるべきことではあります。なので、もう一つの大きな問題は「業界構造上本来会社員であっても良いはずの仕事が個人事業主として行われている」ことなんですよね。ここに切り込まないことにはこの話は解決しないと思います。古くは美容師、今だと声優とかアニメーターとかですかね、特に問題になりがちなのは。正直IT業界とかはサラリーマン最強、その座を譲ってまでフリーランスをしているつよつよエンジニアはこの制度で食われる程度のものではないと思っておりまして、単なる選択ミスじゃねーのと思わなくないんですが、業界そのものが個人事業主であることを強いるようなところについては本件の影響はデカくて重いですよね。自分で単価を決められるような状況にあるならさておき、不利なオファーを断れないって構造だと益税が発生しているのは末端の個人事業者ではなくて、元請けにあたる会社なんですよ。だから、この制度に反対している末端の人を簡単に責めている人は、そういった問題についても、もうちょっと考えてほしい。

働き方改革などの中で国がフリーランスという働き方を提示しておいてこれ、というのもまたヘイトを集めるポイントではあります。まあでも普通の人はサラリーマンやっときゃいいんだよ、という思いは結構ありまして、そうじゃない、どうしても戦わなければならない業界や個人の事情みたいなところにはもうちょっと寄り添いたい気持ちもあります。この話はそういうものであり、益税だから、とかで一発で割り切れるような話ではないんですよ。

ちょっと補足

ブコメを読みつつ。単価を上げるにしても上げないにしてもどこかに皺寄せが来るよね、というのは益税という批判へのアンサーを踏まえると「納税サボってたところに皺寄せが来るのが当然」というのが「正しい」と思いますよ。カッコ書きである理由は本エントリを読めばわかるよね、ということで。
だから、一番Evilな状況ってのは「発注元である立場が強く、相場より安い価格で発注している元請けが今回の対応としては下請けが消費税ちゃんと払ってないだけということにする」ですよね。
適正な価格で税込み発注している元請けは当然なにも問題なく、本件の負担も事務が変わるくらい(それはそれでおそらく負担なんだけど)でよくて、逆に免税されていた請け先については益税を享受していた部分がなくなって一気に苦しくなるかもしれない。でもそれが適正相場(これの判断も超難しいわけだが)なのであれば、それはまさに批判されている益税そのものなわけで。
一方で、さっき言った一番Evilな状況の元請けってのもこれまで免税事業者を安く使うことで実質益税の部分を転嫁して享受してきたわけだし、それで今回さらに下請けにオラ知らね。ちゃんと適格請求書出してね、って言っちゃうから一番Evilなんですよね。往々にしてこういう会社は「納税してないのは下請けの勝手。相場より安い値段で受注してるのも下請けの勝手」と言っちゃうわけですね。こういうのが優越的地位の濫用として断罪されるような世の中であれば特に問題ないはずなので、本当に下請け事業者(フリーランス、個人事業主)がやるべきなのはインボイス反対じゃなくて、価格転嫁を認めない元請けの仕事を団結して避けることだと思うんだけど、それがおそらく出来ないだろうってこともわかるので、世論としてバックアップが必要なはずなんだよね。ともあれ、インボイス反対ってのは構造上の益税そのものを擁護している構図になるから実質益税じゃないんだ的なことを声高に叫んだところで益税批判者の批判をかわすことは出来ない。発注元のあくどい商売を糾弾したほうが良いよね。

もちろん、本当に消費税を益税として享受していてフリーランスサイコーとか言ってた人についてはあまり同情には値しません。

隣人の思想がわかっても

秘書官の発言の件はなかなかアレで、この時代に至ってそれなりに立場のある人が世間に向かってあんな公言をしてしまうって単なるアホなのか、本気でその考えを世に浸透させたい危険人物なのかも判断しづらい感じなんだけど、まあそういうのを見てしまうと色々思うところはある。

僕らは内心の自由は認められるべきだし、内心を暴露しない限り、どんな内心であれそれを思うがゆえに罰せられることはない、というのを基本的人権の一部と捉えているよね。これはよく考えるまでもなく当たり前のことで、例えば魔女狩りのように拷問を受けて、自白したら死、自白しなくても死、ということを国家に強要されるようなことは認められないってことだよね。もっというと、これは「暴露したら罪」であることも否定することになる。じゃないと、「お前の内心は本当はこうだろ」と自白を強要されて暴露をしたら罪、暴露をしなかったら拷問、みたいなことが許されてしまう。内心は暴露をしなくて良いから自由なのだよね。

さて、今回の話、何が問題かって言うと、まず僕たちは「内心がどうあれ、社会の規範に従う」ことが期待されているし、それができるから人間社会であり続けることができると思っている。社会の規範は時として理不尽なこともあるし、古くて腐っていることもあるから、アップデートをしていかないと現実の社会とおりあっていかない(ここが結構ポイント)。現実の社会を変えるためにいろんな運動が起きるし、渋々かもしれないけどそれを新しい規範として受け入れて、社会は変わっていく。ここで一つ問題なのは「渋々かもしれないけど」受け入れている人がたくさんいるってこと。これは純然たる事実だと思うし、これも自由な内心なんだよね。だから、「お前はアップデートできてない」みたいな話ってちょっと僕は傲慢なことだと捉えている。誰もがそれを納得しているコミュニティーは一つの内心であり、そこから逸脱しない限りはそのコミュニティーの中で内心を暴露すること自体は問題ではないと思っている。ただし、それが社会に対して暴露されるとそれは社会の規範によって量られるよね。今世紀に入ってからこの手の問題が増えているのはそのコミュニティーの境目が分かりづらくなったから(主にインターネットとマスコミのせい)だと思うけど、それにしても、不用意な人間が多いと思う(これ、もとからなのか、劣化しているのか、いまいちわからない)。

問題は、「そういう人がいる」ことに対する恐怖だよね。でも、実際には隣人の内心がわかっても、わからなくても、怖いことは変わらない。100%こっち側であることが保証されている人って、実はいないんだよね。じゃあ、もしテクノロジーでそれを色分けすることができるようになったら?その結果は社会において敵と味方がはっきりすること、でしかないと思う。そしてそれは建前でなんとか成立している社会がはっきりと人が人と対立し続ける社会に変容していくことだし、極端な話だと人類は衰退すると思うわけ。
これはあまり冗談ではない話だし、だからSFにおいて思考が統合されたような高次元の存在が人類の社会性の低さに驚くような話にもなるよね(もっとも、集合体としての生物が高次元と本当に言えるか、は今の僕たちにはわからないけど)。

ともあれ、僕たちは「お前の内心はおかしい」という批判はしてはいけない(時代に合わない、とか改めたほうがよい、とかは言っても良いと思うが、今抱えている内心そのものを無条件で否定してないけない)。するべきなのは、「お前はその内心を暴露する範囲を誤った。範囲外の人に謝罪せよ」なんだよね。でも、こういう言い方するとおそらくその内心にさらされた当事者たちは怒るか、怒らないまでも納得しないことが多いんじゃないかな。でも、社会というのはそうやって成り立たせていくべきものだと思うよ。理解できない者同士が建前で折り合っていく、ということが出来ないのであれば、ある価値観をもとに別の価値観を滅ぼすことは正当化されてしまうからね。