novtanの日常

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続・インボイス制度の問題の本質

前回のエントリが久々に注目を集めてしまったので、はてブに知見がたくさん集まりました。なので、ブコメからコメント(の内容)をピックアップして議論できたらと思いまして、続きを書くことにしました。
インボイス制度の問題の本質 - novtanの日常

再度お断りしておくと、僕は法律の専門家でもなければ経理の専門家でもないので、法理の話とか、事務手続きの実際とか、そういうところを隅から隅まで把握しているわけではありませんし、そのあたりは実業務に従事されている諸兄のほうが詳しいことが多いと思いますので、ぜひ(懐かしい言葉ですが)集合知を発揮していただきたいと思っております。

本質って部分が書いてねーじゃねーか/どこが本質だかわからない

すみません。m(_ _)m
最初間違ってタイトル無しで公開してしまいまして…orz
焦って適当なタイトルつけちゃいました てへぺろ(・ω<)
(ここだけ平成並)

消費税が悪い

これは議論の前提が違うのでここでは議論しないほうが良いと思います。消費税の課題は導入当初から益税と言われていた部分が大きいと思っており、それは長年かけて解消(軽減)されて来てはいるんですよね。そこで最後のトドメとしてインボイスの採用、なんですが、採用するに当たっての課題があまり解決されていない(手段が拙い)ことが今直面している話というわけではあります。消費税そのものの問題(逆進性が強いなど)はまた別の話として考えましょう。

やっぱりインボイス制度自体は正しいんじゃないの?

前回冒頭で述べた通り、その事自体は僕もそう思っています。特に税の負担をどういうふうにやっていくか、という話だけであれば。問題は提示されている手段なんですよね。事務コストもそうだし、登録情報公表問題もそう。発注者側の立場からすると「免税事業者は存在しない」になってくれるとまだ楽なんですけどね…

免税事業者からの仕入控除ができなくなるのが問題

これはまあ制度の目的を考えると当然ではあります。経過措置で控除率が徐々に下がっていく、というのも困った話で、結局免税事業者から仕入れてしまうと税負担が増える、という風に受け取っている企業が大半なんじゃないでしょうか。ここがおそらく一番今回の意見が分かれるところでしょう。

  • 適正に税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね派(弊社は基本的にはこれです)
  • 適正かどうかしらんけど税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね派(こういう会社も多そう)
  • 適正かどうかしらんけど税込みで支払っていたんだからこの後も同じだよね。税込みだったよね?派(なあなあでやっていた場合ここになる罠がありそう)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたけどそれできなくなるからちゃんと税込みで払うから適格請求書ちょうだいね派(こういう会社もまあまあ多いハズ)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたしその単価しか払えないから今度からその金額税込みなんで適格請求書頂戴ね派(これは悪の所業だけど案外多そう)
  • 今まで免税事業者だからラッキーって思ってたけど、適格請求書出すの大変だろうし今まで通りでいいよ税金はうちが負担しますよ派(神?おそらくいません)

事務コスト考えたら益税吹っ飛ぶんじゃ

これは結構現実的な問題と捉えている人が多いですよね。実際のところ、ITの活用や領収書の電子保存等々、外堀を埋めて満を持してやってきた、という感はあるんですが、それでもまだ一人親方として余計な時間を取られるということを忌避する人も多いですよね。
ところで
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/invoice.pdf
に結構な補助制度の説明があります。インボイス制度になること自体を渋々ながらも受け入れられるのであれば、こういったものは最大限活用してほしいです。
こういうのを活用してもなおこういう問題がある、という人はやはりそこをきっちり説明した上で問題として訴えないと。ただ面倒くさい、というだけで嫌がっているのは一番ダメです(そりゃ嫌でしょうけど…)

値上げ交渉できないのがダメなのでは?

これもね、正論なんですよ。ただ、往々にして値上げ交渉ができないジャンルって「定価がない」んですよね。この資格を持っていたらいくら、この仕事内容だったらいくら、とかお国が決めてくれるんであればありがたいですが、「これだけ払ってやっているんだ。ありがたく思え」みたいなエリアだってあるはずですよね。
「代わりはいくらでもいるから」と言われるエリアで仕事をするとそうなっちゃうことが多いじゃないですか。もちろん、労働市場からするとそれは「供給過多」ではあるんですよね。だから、そんな仕事を選ばなければ良い、と言いたくなる人もわかります。わかりますけど、ねえ。
これを誰もが納得できる形で解決するのはとても難しい。そして、弱者が割を食うのが想定される形で制度が執行されようとしている。とはいえ、急に言いだした話でもなくて結構何年も前からそうなるよって決まってました。マッチョイズムで考えると弱者であることから脱却できない責任が個々にあるってことになりますが、ちょっとマッチョすぎやしませんかね。

税抜きの金額で受注してたのってダンピングなのでは?

そうは言っても僕もまあまあマッチョよりの考え方ではあるので、「相場より安い価格で勝負しているのが価格しか競争力がないからなんだったらそんな仕事で事業者するの止めたら?」って思わなくはないんですよね。お前らが相場下げてんのかYO、みたいな。
この件も上の話と一緒で「定価がない」「価格決定権がない」「あっても値切られる」というような問題がありますよね。実質社員のようなものなのに個人事業主である、みたいな仕事がなければ良いんだと思います。おそらく特定の業界について門戸が狭くなるけど、その方が幸せかもしれませんよ…

事情があって個人事業主としてやってくしかない人もいるんです

そうですよね。そういう人もいますよね。1ヶ月フル稼働できない人だっているし、そういう人ほど相対的に事務コスト重たいですよね。大多数が適格請求書を出すような社会になれば、逆に例外としての運用がしやすくなるかもしれません。過渡期の犠牲者と考えたほうが良いとは思っています(何も解決していないが)

益税なんてないです

あります。というか、消費税が導入されたときの騒ぎをまだ覚えている人は僕らの世代には結構多いでしょう。当時は自営業の人がインタビューで「もらう金は増えるし免税だしでウハウハです」みたいなことを言っていたりとか、はっきりと益税としての性質が明らかになっていたし、そういう不公平感が田舎のJUSCOの進出を正当化したしそのせいでシャッター街が増えて…あれ、消費税やべーじゃん…ソレハサテオキ
ただ、この益税としての性質は免税になる要件を狭めていったり、色々した結果だいぶ是正されているので、当初に比べて益の部分が薄くなっているのは確かなんですよね。だから、「そこからも搾り取るの?」みたいなイメージにはなりますよね。今回、政府側がちょっと説明足りてないのは「これが正しいからやるんだ」とかそう言うんじゃなくて、実際にどこの益税を是正するのがターゲットなの、というメッセージが伝わってない点だと思うんですよ。これを免税事業者側だと言う人もいれば、実質的に享受している発注者側だ、と言っている人もいる。これってどっちが正しいのって話じゃなくて、ケースバイケースで発生していることじゃないですか。どちらかが正義、という意見には僕は与さないし、ポジショントークだと思っています。
あと、預り金じゃないって見解が出たから益税じゃないじゃんってこと言う人もいますが、預り金じゃない=益税ではない、ではなくて、制度上国庫に納めないことは問題ない=益税である、ということじゃないのかなあ。益税=単純に悪(制度的にはあっては良くないが、実際に益が出る人が不正をしているわけではないので享受している人を悪と単純化してはいけない、ということね)、という構図に囚われているのでそういう発想になっているだけで、正しく制度のメリットを享受している(してきた)ことに何の問題もありません、ってことでしかないです。

これは実質増税なのでは?

厳密に言えば増税ではないと思いますが、免税要件を満たしているのにそれを実質機能しないように塞ぐってことであればそれは実質増税ですよね。さっきも述べた通り、実際に益税であっても、もうその益の部分は誰かをうはうはさせるレベルではない(特に免税事業者側にとっては)ので、やっぱり実質増税と言っても過言ではないですよね。まあ、優越的地位を乱用して請負業者に相場より安く税込みで発注している立場の人は請負先の掛け算で利益が出るので、現状の状態が実質脱税と言っても良いかもしれません。そういう会社が今回のターゲットなのでは?って思ってはいますけどね。それで免税事業者が割を食うのどうなのって話ではあります(これ堂々巡りだけどさ)

最後に

まだ色々意見もらってますが、キリがないのでこの辺で終わりたいと思いますが、何にせよ、こういった変化にはどうしてもわりを食う人がいるし、それが弱者の場合、社会へのインパクトが大きかったりもしますし、全員がハッピーになるシナリオは存在しないと思います。ただ、これを制度が悪いとか今まで得をしてきたやつが悪いとかで簡単に片付けられるとは思わないし、何事においてもそうですよね。大事なのは問題の当事者がちゃんと声を上げることだし、社会を変える事のできる力を持つ人と共同して動いていなかなければならないんですよね。
現在の社会の大きな課題はなぜかそういう問題に対する「運動」が適切に行われないことにあります。労組はもはや力がないし、共産系市民団体とかもう社会の支持から遠いところに行ってしまったし、数々の「~の春」を生んだインターネットは団結じゃなく断絶により多くの力が発揮されている始末。市民が社会の変革を迫るにはまだ「怒りが足りない」のかもしれませんね…

こっちも追記

いくつかコメントに応答的に。IDは一旦出しません。
>ジャスコはJUSCO
あ、はい。修正しました。

>なんでこの話になると免税事業者が全員消費税を取ってたことになるの?
ならないですよ。でも前回含めそこのケースについて明確に書いてなかった気もする(実質的には書いてるつもりだけど)。
免税事業者だから「税抜きで」ではっきりやっているところがどのくらいあるのか正直わからないけど、仮にそうだとしても元請けが側って見なしで仕入れ控除ができるので、その場合は元請け側の益税となっている、というのは前回も今回も触れたとおりです。

>「制度上国庫に納めないことは問題ない=益税」←納める必要がないお金は”税”とは言わない。
益税の定義が「消費者から預かった~」って一般になっているのが益税あるなし論の誤った論点(預り金じゃないから益税じゃない、という理屈をめぐるもの)だと思ってるんだけど、「免税」という言葉がある以上、「税」なんですよ。税じゃないなら免税しないじゃん。制度上発生するものであり、収めない人が不正をしているわけではない、ということだよ。
上でも触れたけど、消費税の導入当初は自営業は3000万くらいまで免税事業者だったから、上限一杯で3000万売上てた自営業は何もしなくても90万収入が増えた。もし免税枠が当時のままだったら5%→8%→10%のたびに何もしなくても収入が増えてた。実際には免税枠は減ってるけど、逆に免税枠に収まっている限りは税額が上がるたびに収入増えるわけじゃないですか。
これは消費税の制度の欠陥でもあるんだけど、税額を上げれば上げるほど、そこの枠が増えていく。政府は税額上げたいだろうから、この状況は是正したい。フリーランスみたいな働き方を増やしたい(ほんとかしらんしいいことだとも思ってないけど)けど、小規模事業者が増えれば増えるほど、この免税枠によるとりっぱぐれが増える。そりゃやめたいわな。
なんだったら、将来増税されることも込でフリーランスの有利なところ、みたいなフリーランスおすすめをしてた人とかいるんじゃねかなあ(ちょっと調べた限りだと、「お得」って書いてある記事は発見した)

>雇われ税理士としては事業者免税点制度が小規模事業者の事務負担と税務執行コストへの配慮から設けられてるのにそこを乗り越えてどうすんの?って思ってる。
そうだよね。ここがアンバランスであることが今回の問題の本質の一つです。今回のエントリへは値上げできないやつは退場とか事務負担で泣くやつは退場みたいなマッチョなコメントが多すぎって思っています。もちろん、自営業やるってことはそういうことだよってのは正しいんだけど、色々事情もあるよ。契約のロット(や1回の金額)が大きくて経費もある程度固定化している雇われエンジニアのフリーランスの事務コストと、ちっちゃい売上と仕入れを山盛り取り扱わなきゃならない人の事務コスト、同じだと思います?前者だけで物を言っているのであればちょっと違わねーかなーって思いますよ。

>農業経営してますが、農家は価格決定権がなく市場で決定されるから全然価格転嫁できない。うちも持ってるけど価格交渉できる契約をもつ農家しか生き残れないなら今の市場中心の仕組は壊滅です。それで本当にいいの?
ですよねー。JUSCOのくだりを書いた意味を察してってことです。

>消費税の良し悪しを抜きにしてインボイス語るの流石にポジショントークだろ。電子帳簿は運用最悪の悪法なのに外堀埋めてるとか何言ってんだよ。
なんのポジションか言ってみ?まあ電子帳簿の話はわかる。でも外堀の話はそういう単一イシューの話ではないよね。埋まりきってないよってことであればその通りで、だからこんな揉めてるわけじゃん。まあでもこの人はおそらくロジカルに問題点をおさえていると思うので、そういう人が問題点をもっとアピールして行く運動をすることで自体の改善につながるかもしれません。僕が今回これを書いている目的の一つは、両側の人が双方認識していない、相手方が考えている正しさや誤りを可視化したいという点にあるので、ちゃんとわかっている人や問題に直面している当事者がもっと活発に動けるトリガーになったら嬉しいんだけど。


さて、
改めて言っておくけど、出来もしないのに欠陥制度に乗っかることでかろうじて成立しているフリーランスなんてのはやめちまえ、というのは正しいと思いますよ。でも、そう単純に割り切ることのできない世界が存在していることも、色んな人の声を聞いてわかるじゃないですか。ありとあらゆる職業とその契約形態を体験したジョブマスターみたいな人はいない以上、制度の犠牲になる人がどうなっちゃうのかくらいには思いを馳せても良いと思いますよ。
かつて、池田勇人が「中小企業の倒産・自殺やむなし」って言って通産相を辞任したことありますよね。マッチョな皆さんはそういうこと言っているつもりかどうか、もう一度考えてほしいです(そうなるのはしょうがないと思っていてもそれを世の中に必要なことだと求めるまでいかないのであれば、そこまでは言わないほうが良いですよ)。

あと、僕が今回影響を受けて困っているフリーランス側と誤認している人もいるみたいだけど、サラリーマンです。念のため。