novtanの日常

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PCエンジンのお陰でNECのパソコンが売れるようになった、は誤りなのか

togetter.com

ちょっとこのまとめに数字の話が全然ないので何が起きてるのか判然としないのだけど、このYoutuberが言っている「PCエンジンでNECパソコンが普及したという事実を絶対に認めたくない自称古参オタク」みたいなコメントが実際に多いので、そうではなくて事実から確認しようぜという趣旨です。

適当にWebで探した範囲で参考文献を貼っていくけど、まず大事なのはこの辺。

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hk/semi/paper/Asai07PC.pdf
P4当たりにある「NECの市場シェア」を見ると85~87年に掛けて35%→45%と10ポイントも伸長している。これはPCエンジンでNECの知名度が上がったからと言えるだろうか。

おそらくそうではなかろう。PCエンジンの発売日は87年の10月30日であり、残り2が月で爆発的に「シェアが上がる」ということは考えづらい。一方で、それ以降のシェアはしばらく横ばいである。ここからPCエンジンの影響を読み取ることは難しい。

ただ、この時期はPC自体の出荷台数が大きく伸びる時期でもあった。なんか出荷台数の統計情報が全然出てこないので(グラフはしばしば見つかるんだけど)Wikipediaの当該記事のグラフを見てもらえるとわかるんだけど、87年から90年までで倍以上になっていることが見て取れる。これはPCエンジンのおかげだろうか。
パーソナルコンピュータ史 - Wikipedia

そうではないよね。シェア自体は既にNECが大きく確保している中で、市場全体が伸びている。もしPCエンジンの「おかげ」なのであれば出荷台数とシェアが両方伸びていかないと都合が悪い。実際にはシェアは伸びていないので出荷台数の影響がPCエンジンのおかげとは言えない(それが原因なら他社の伸び率が低くてシェアが上がらないと筋があまり通らない)。

今回本件に反論しているのは「PCエンジンでNECパソコンが普及したという事実を絶対に認めたくない自称古参オタク」であるからして、当時NECが圧倒的なシェアを持っていたという「事実」以外を必要としていない人が多すぎる気がしてならないんだけど、そもそも当時の一般的なNECの立ち位置というのは昔よく言われたパソコンジョークとしてこんな話があったよね。
「うちもパソコンとやらを買おうと思うんだが…」
「それでしたら今人気のNECのパソコンはどうでしょう?」
「NEC?知らん会社だな。まあいい。そのテレビはなんだ?」
「これはディスプレイといいまして…」
「なんでもいいけどNECのテレビなんてのはダメだろう。ナショナルにしてくれ」

NECってそういう会社だったの、みんなは記憶にあるだろうか。バザールでござーるのCMが始まったくらいでようやく人口に膾炙した。

そういうことを考えると、PCエンジンがNECの知名度を上げるのに一役買った、という可能性はゼロではないと正直思わなくもない。ただ、PCエンジンというゲーム機は確かに結構売れたけど、(当時の)大人が認識しているゲーム機の一般名称である「ファミコン」から知名度を奪うことがなかったし、作っているのがNEC(の関連会社)であることを知っている人もそんなにはいなかったのではないか、と思わなくもない。どちらかというとパソコンマニアであった僕たち(勝手にたちっていうけどw)からすると、あのNECがゲーム機出すんだって!ハドソンがガッツリついてるんだって!って思ったくらいの因果関係ではあるんだけど、全くパソコンのことなんて知らない当時の一般の人にとって、PCエンジンの存在がどの程度インパクトが合ったかについてはその立ち位置の人が昔語りをしてくれないと正直分からない。

ただ、数字だけの話でいうと、流石に「PCエンジンでNECパソコンが普及したという事実」というのはいい過ぎである、というのが現時点の僕の結論だよ。そもそものまとめがひどすぎて、PCエンジン黎明期に活躍したけど別にPC市場の専門家ではない岩崎さんを引き合いに出すの、あんまり良くないと思う(まあ彼の発言は当事者能力が高くてそれはそれで史料的な価値が高いんだけど)。

あと、NECの市場シェア(いわゆるNEC帝国状態)については以下の論文に詳しい。当たり前だけどこの手の話は学術方面ではある程度きっちり研究されてるもんだよ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/amr/22/3/22_0230131a/_pdf